ロンドンでは毎年、LIMUN(London International Model United Nations / ライムン)というヨーロッパ最大規模のModel UN(Model United Nations – 模擬国連会議)が開催されています。模擬国連とは、学生が各国の大使になりきり、国連会議を模して議論を行う教育的な活動です。多くのイギリスの大学には模擬国連のSociety(日本の大学でいうサークルのようなもの)があり、LIMUNはそれらの団体が一堂に会する大きなイベントとなっています。
今回は、友人が模擬国連の最高責任者であるSecretary-General(事務総長)を務めることになり、その関係で僕も4月26日〜27日に開催された高校生向けのLIMUNであるLIMUN:HSの広報担当として企画・運営に参加しました。期間中には、過去にLIMUNの幹部として携わってきた友人へのインタビューを行うこともできました。この記事が、国際問題や外交に関心のある方々が模擬国連の魅力を知るきっかけになれば幸いです。
準備期間
友人からLIMUN:HSの企画・運営の打診があったのは、1年前の11月でした。大学時代、私は模擬国連に参加していませんでしたが、周囲には模擬国連のSocietyに所属している友人が多く、活動内容が気になっていたこともあって、彼女の誘いを受けることにしました。

本格的な準備が始まったのは、イベントの3か月前、今年の1月からです。最初はSNSやウェブサイトを通じた告知・募集業務が中心でしたが、開催が近づくにつれ、業務量が一気に増加。特に大変だったのは、11ある委員会それぞれの概要や議題の関連情報をまとめたStudy Guide(議題解説書)の編集と、約200人分の参加者情報をもとにプラカードやIDカードを作成する作業でした。直前のキャンセルや飛び入り参加もあり、当日までバタバタしていました。

模擬国連当日、参加者は委員会ごとに分かれて異なる議題で会議を行います。今回のLIMUN:HSでは、‟The Rise of Mega-Constellations: Managing Space Debris and Orbital Congestion” -「巨大星座の台頭:宇宙デブリや軌道混雑にどう対応するか」という議題を扱うCOPOUS(Committee on the Peaceful Uses of Outer Space – 国連宇宙空間平和利用委員会)や、“Addressing Security Issues in the Sea of Japan” -「日本海の安全保障問題」をテーマとするUNSC(United Nations Security Council – 国連安全保障理事会、安保理)など、幅広いトピックが設定されていました。なかには、‟Death of Julius Caesar” -「ジュリアス・シーザーの死」というテーマで、歴史上の人物になりきって議論を行うCRISISという変わり種の委員会もあり、特に人気がありました。Study Guideやプラカードなどをまとめているうちに、本当に色々な委員会やトピックがあると実感し、面白そうだなと思いました。

イベント当日
実際にLIMUN:HSに参加してまず感じたのは、やはりそのスケールの大きさでした。会場となったKing’s College London(キングスカレッジロンドン)のキャンパスを全て貸し切り、ロンドンやBath(バース)、Southampton(サウサンプトン)、南部のGildridge(ギルドリッジ)、Oxford(オックスフォード)、Cambridge(ケンブリッジ)などから10校以上、合計約150人の高校生が参加しました。
高校生向けのイベントを大学生が主催するということもあり、運営側には参加者の安全と満足を第一に考える責任がありました。準備期間中は各高校の生徒・そして先生方とも頻繁にコミュニケーションをとり、注意事項などを確認し合いました。イベント期間中は各会議室に加えて、Wellbeing Room(ウェルビーイングルーム – 精神的なストレスを抱えた場合によく使用される休憩室)やサポートスタッフの配置など、細かな配慮が求められました。運営中は常に緊張が抜けず、何かトラブルが起きないかと気が気ではありませんでした。
会議の様子を見学する機会もありましたが、生徒たちは事前にしっかり準備をしていて、非常に熱心にディベートに取り組んでいました。多くの生徒が、将来は大学でも模擬国連を続け、LIMUNに参加したいと話していたのが印象的でした。閉会式では、各委員会で最も活躍した生徒や、著しい成長を見せた生徒に表彰状が贈られるセレモニーも行われました。

LIMUN幹部経験者インタビュー:ガブリエル君(スペイン出身)
Q:そもそも模擬国連とは?
模擬国連とはその名の通り、国連の活動を模擬的に体験する活動です。国連には業務を遂行する様々な機関があります。例えば、WHOと呼ばれる保健や医学事業などを専門分野とする世界保健機関(World Health Organization)やUNICEF(ユニセフ)と呼ばれる子供達の支援や保護をする国連児童基金(United Nations Children’s Fund)などがあります。期間中はそれぞれの委員会に分かれて、定められたテーマの国際問題について議論や交渉を行います。
Q:あなたの模擬国連での役割は?
僕は来年行われるLIMUNにDSG(Deputy Secretary-General / 副事務総長)として参加する予定です。模擬国連の包括的な企画・運営をする役職です。過去には各委員会の企画を担当するUSG Chairing(Under-Secretary-General Chairing / 事務次長議会企画担当)という役職もしたことがありました。
Q:模擬国連の面白さとは?
どういう役割を持って模擬国連に参加するかによって、全然違った体験ができるところだと思います。基本的には議長(Chair)か事務局(Secretariat)役で参加して模擬国連の企画・運営をするサイドになるか、大使(Delegate)役で会議に参加し、決議案の作成などを行うかの2つです。知人がChair役をやっており、それに興味を持ったのをきっかけに、僕はこれまでChairの立場で模擬国連に2年間参加し続けてきました。より深く、内部からこのイベント・活動に携われるのが楽しいところです。
Q:運営側としてのやりがいは?
LIMUNはヨーロッパ最大規模の模擬国連イベントです。今年の2月に行われたLIMUNでは計1200人もの学生が集まりました。それだけの人数を集めて模擬国連を企画・運営するのはもちろん大変でもあります。1000人以上の参加者がトラブルなくイベントを終えるためには、随分前から準備を始めないといけないですし、プレッシャーや仕事量に押しつぶされそうになることもあります。学業との両立も大変でした。ただ、それほど大規模なものを一から立ち上げて、参加した人たちが楽しんでくれている姿を見るとやりがいを感じます。
Q:模擬国連の活動を経て得た成長は?
模擬国連の活動・会議はディベートを中心に行われます。会議に向けての練習だったり、実際にディベートに参加したりすることで自分のスピーキング・ディベートスキルが特に上がったなと思います。最初はなかなかうまくいきませんでしたが、何回も会議に参加していくうちにどんどん自信がついていきました。ディベート中、他の人と意見交換をするのは自分の知らない国の政治事情などを知る面白い機会でもあります。特にLIMUNのような大きなイベントになると違う地域の大学からも参加者が来ているので、新しい友達を作るきっかけにもなりました。振り返ってみると心理的・社会的・精神的、様々な面で僕を成長させてくれた経験だと思います。
Q:模擬国連にはどんな人が向いていると思いますか?
当然、国際関係や国連、もしくはそこで働くことに興味がある人にはピッタリな活動だとは思います。保健や医療に興味がある人はWHO、法学に興味がある人はICJ(International Court of Justice – 国際司法裁判所)、歴史や考古学に興味がある人はUNESCO(United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization – 国際連合教育科学文化機関、ユネスコ)といった具合で、関心のあるトピックについて意見を交換し合います。特別国連に興味を持つ必要があるとは思いませんし、どんな人でも惹かれるテーマに出会えるはずです。
Q:将来への役立ち方は?
将来国連で働きたいと思うなら、模擬国連はその予行演習をできる貴重な機会だと思います。そうでなくても、さっき話したようにここは心理的・社会的・精神的に成長できる場なので、何かしらの形で必ず将来に役立つと思います。
Q:最後に、模擬国連に興味を持っている人へ一言
Just go for it! 僕にとって模擬国連は、大学生活で最も充実した活動でした。最初は不安があっても、思い切って参加すれば、必ず得るものがあります。LIMUNで出会った友人は今でもかけがえのない存在ですし、それが来年またChairとして参加することを決めた理由です。この記事が、少しでも多くの人に模擬国連の魅力を伝えられたら嬉しいです。